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高松高等裁判所 平成3年(行コ)7号 判決

控訴人

三好美喜子

右訴訟代理人弁護士

臼井満

被控訴人

観音寺市教育委員会

右代表者委員長

大塚義雄

被控訴人

観音寺市

右代表者市長

今津禮二郎

右両名訴訟代理人弁護士

田代健

右被控訴人観音寺市教育委員会指定代理人

松原潔

外二名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人観音寺市教育委員会(以下「被控訴人教育委員会」という。)が昭和五九年四月一日付でした、控訴人に対する観音寺市立郷土資料館主幹補に補する旨の処分を取り消す。

3  被控訴人観音寺市(以下「被控訴人市」という。)は、控訴人に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成二年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  3につき、仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項と同旨

第二  主張

次に補正するほか、原判決の「事実」欄第二記載のとおりであるから、これを引用する。

一  三丁裏九、一〇行目の「原告を教育職から他の職種へ転任させる」を「原告は、教員として採用された者であるから、原告を教員でない職員に転任させるには、原告の同意を要するのに、その同意がないから、本件処分は違法であり、仮に、原告の同意がなくても被告教育委員会がその自由裁量により原告を教育職でない他の職務に転任させることができるとしても、転任の」に改める。

二  四丁裏七行目の末尾に「本件処分により、公立学校共済組合の組合員であった原告は、市町村共済組合の組合員となった。その結果、原告は、本件処分後定年退職までの間に、別紙「市町村共済・学校共済 比較表」記載のとおり不利益を受け、退職後の任意継続掛金も、公立学校共済組合より多額である。原告は、本件処分の取消により、公立学校共済組合の組合員の地位を回復でき、したがって右の不利益を免れるから行政事件訴訟法九条により、本件処分の取消しの訴えの利益を有する。」を加える。

三  五丁表九行目の「教育委員会」から同丁裏六行目の「決定したものであるから」までを「したがって」に改める。

四  七丁表四行目の「被告教育委員会が」を「被告教育委員会が任免権を有する教員を教員でない職務に転任させるには当該教員の同意を得る必要はなく、その自由な裁量でできるものであるところ、」を加える。

五  八丁裏五行目の「本件処分から」を「本件処分が行われた日である昭和五九年四月一日から」に改める。

六  一一丁表一一行目の末尾に「。」を加え、同丁裏一一行目の「労働契約」を「任用」に、同所末行の「職務の労務に従事させる」を「職務に転任させる」に改める。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人教育委員会に対する本件処分の取消しを求める訴えは、不適法として却下すべきであり、被控訴人市に対する損害賠償請求は、失当として棄却すべきであると判断する。その理由は、次に補正するほか、原判決の「理由」欄の記載と同じであるから、これを引用する。

1  一二丁裏末行の「解すべきところ」から一三丁表五行目末尾までを「解すべきである。ところで、本件処分により、公立学校共済組合の組合員であった原告が市町村共済組合の組合員となったことは地方公務員等共済組合法三九条三項に照らし明らかであるところ、原告は、本件処分後定年退職までの間に、別紙「市町村共済・学校共済 比較表」記載のとおりの不利益等を受け、退職後の任意継続掛金も、公立学校共済組合より多額であるから、本件処分の取消により、原告は公立学校共済組合の組合員の地位を回復できることとなって右不利益を免れるので行政事件訴訟法九条により、本件処分の取消しの訴えの利益を有すると主張する。しかしながら、本件処分の結果所属すべきこととなった市町村共済組合に支払う掛金の額が、従前所属していた公立学校共済組合の掛金額より増加することとなっても、それは本件処分に伴う付随的結果であって、行政事件訴訟法九条所定の処分の取消しを求めるについての法律上の利益には該らないというべきであるのみならず、原告が定年退職後任意継続組合員として加入継続ができる二年の期間(地方公務員等共済組合法一四四条の二)も既に経過していることは明らかであるから、原告が本件処分の取消しによって公立学校共済組合の任意継続組合員となる余地もない。」に改める。

2  一三丁表九行目の「甲一ないし七」の下に「、甲一二の1、2」を加え、同所九、一〇行目の「証人関武雄の証言」を「原審証人関武雄、当審証人高橋孝徳及び同矢野劭二の各証言」に改め、同所一〇行目の「原告本人尋問」の前に「原審・当審における」を加える。

3  一五丁表九、一〇行目の「指導したが、原告は」を「指導した。そこで原告は、翌一九日に主任教諭とともに石川宅を訪問したが、同人が不在であったため同人に会長就任を依頼することができず、その後は」に改める。

4  一六丁表三行目の「他の幼稚園への異動」を「他の幼稚園長への転任(幼稚園長を他の幼稚園の園長でない教諭とすることは降任になるので、それができるのは地方公務員法二八条一項各号のいずれかに該当する場合に限られる。)」に、同丁裏三行目の「人事異動を含め」を「転任を含む観音寺市立幼稚園の職員の人事異動について」に改め、同所四・五行目の全文を削る。

5  一六丁裏末行の「適していること」から一七丁表三行目終りまでを「適し、その社会教育活動の充実が期待できること、同資料館の職員は三名であるが、館長は被告教育委員会社会教育課長が兼任し、一名は同課員が兼任し、常勤職員は一名であることから、他の職員と摩擦を起こす恐れはないと判断し、原告が係長級(園長)であるので、同資料館に係長級相当の「主幹補」の職を設けて降任にはならないように配慮した上、原告を同資料館主幹補に転任させる計画を立て、同月二八日、原告を被告教育委員会に呼び出し、その旨内示したが、原告の承諾を得ることはできなかった。しかし、教育長は、原告を右計画案に従って異動させることはやむを得ないものとし、翌二九日、原告を同年四月一日をもって観音寺市立郷土資料館主幹補に補する旨の被告教育委員会名の辞令書を原告に交付し、本件処分を行った。原告は、本件処分の前後において給与制度に設けられている「職務の等級」に変更はなかった。」に改め、同所四行目冒頭から同所一一行目末尾までを削る。

6  一七丁裏八行目の「除外されているものの」を「除外されている(甲九、乙一の2も同じ。)が、教育委員会がその事務を個別に教育長に専決させること(内部委任)が許されないと解すべき理由はないところ、」に改める。

7  一八丁裏一、二行目の「裁量権の濫用又は逸脱によるものであるとの点についても、」を「原告は、教員として採用された者であるから、教員でない職員に転任させるには、原告の同意を要すると主張するので、この点について判断する。地方公共団体による地方公務員(教育公務員を含む。)の採用は、被採用者の同意を要する行政処分と解されているが、地方公務員である教員として採用した者を同一地方公共団体内部の教員又は他の職員に転任させるについてはそれが任命権者を異にする場合であっても当該教員の同意を必要とする旨の規定は存しない。また、採用時の同意が、教員としての職務の従事に限定されたものと解すべき理由もない。したがって、転任は、任命権者の自由な裁量に属し、転任の必要性、合理性の観点からみて裁量権の濫用又は逸脱があった場合に初めて転任が違法となると解するのが相当である。そこで以下、この点について判断する。」に、同所二行目の「原告の着任」を「原告が高室幼稚園長として着任した」に、同所九行目の「不適当と判断した点」から一九丁表末行までを、「不適当と判断し、その転出先を検討したが、結局教育職のままで転出させる職場を見い出し得なかったので原告の教育職の経歴を生かすことのできる郷土資料館勤務を相当とし、係長級である原告が降任になることがないよう、同資料館に係長級相当の「主幹補」の職を新たに設けて、本件処分を行ったものであること、原告の受ける給与は処分後も処分前と同じであること等の事情を総合すると、本件処分はやむを得ないものであったと認めざるを得ず、本件処分が被告教育委員会によってその職権を濫用し、もしくは裁量権を逸脱してなされた違法のものということはできない。」に改める。

よって、控訴人の被控訴人教育委員会に対する訴えを却下し、被控訴人市に対する請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官安國種彦 裁判官渡邊貢 裁判官田中観一郎)

別紙〈省略〉

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